「キングドル」と呼ばれる極めて強いドルの状況が続く中、新興国通貨の対ドル価値がこの2年で最大の下落幅を記録した。トランプ次期大統領による広範な高関税導入の予告や、財政緩和の見通しが強まったことでドル高がさらに進行。一方、新興国通貨は軒並み弱含みとなっている。
○新興国通貨価値5%下落
JPモルガンの新興国通貨指数は10月以降5%以上下落したとフィナンシャル・タイムズ(FT)が12日報じた。この傾向が続けば、今年第4四半期の同指数は2022年第3四半期以来の最大の四半期下落率を記録する見込みだ。 ブルームバーグによると、少なくとも23の通貨が今四半期にドルに対し下落していると伝えた。ファンド会社GAMの新興国債券・通貨責任者であるポール・マクナマラ氏は、「ドルが新興国通貨安の主因」であると語った。 メキシコ・ペソは今四半期で2.1%下落、中国人民元は域外市場で3.7%下落した。これはトランプ氏が先月「就任初日にメキシコ・カナダ製品に25%、中国製品に10%の追加関税を課す」と発言した影響とみられる。 また、新興国通貨の全般的な心理を反映するとされる南アフリカ共和国は、9月末以降約2.4%下落。フィナンシャル・タイムズは「トルコやアルゼンチンなど、投資家から極めてリスクが高いと見なされる国の通貨だけが、今四半期に上昇した」と指摘した。大統領選後に広がった新興国通貨の売りは、先進国の低金利通貨を借りて新興国の高金利資産に投資する「キャリートレード」にも影響を与えた。シティグループが追跡する新興国「キャリートレード」の収益率は今年1.5%にとどまり、10年平均並みの水準にとどまった。これは昨年の7.5%を大きく下回る。 新興国通貨がこのような四半期の大幅下落を記録したのは2022年以来だ。当時、連邦準備制度理事会(FRB)がインフレ抑制のため強力な金融引き締めを行い、金利急騰で新興国通貨を圧迫した。
○ブラジルの財政赤字、韓国の非常事態宣言など内部混乱も
フィナンシャル・タイムズは、関税以外にも各国固有の問題が通貨安を招いていると分析するウォール街のアナリストの見方を紹介した。マッコーリー・グループの世界通貨・金利ストラテジストのティエリー・ウィズマン氏は、「新興国市場には悪材料が山積みだ」と指摘し、「中国では国内経済の停滞懸念と中銀の緩和継続観測が、ブラジルでは財政赤字と債務の持続可能性への懸念が通貨安につながった」と分析した。ブラジルレアルは対ドルで史上初めて1ドル=6レアルを突破した。 また、コロンビアのスレッドニドル・インベストメンツのグローバル金利ストラテジストであるエド・アルフセイニ氏は、メキシコについて「アメリカ最大の貿易相手国としては生産性、成長、投資水準が極めて低い」と指摘。「最近の司法改革後、憲法や国家制度に関する問題もある」と述べた。 フィナンシャル・タイムズは韓国ウォンに関し、尹錫悦大統領の非常事態宣言に言及。「ウォンは尹大統領の非常事態宣言後に打撃を受けた」と伝えた。 ウィズマン氏は「現在、強力な経済ストーリーを持つ新興国は存在しない」と指摘し、「新興国資産の売りは『アメリカ資産以外に投資の選択肢はない』というTINA(There Is No Alternative)論を復活させた」と分析している。
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